おわりに

お読みになってどのような感想を抱かれたでしょうか。

個人的にはトバイアス・マッセイの一連の哲学的洞察には唸らせられました。言われてみれば当たり前のことですが、言われるまでは気づきもしないことばかりです。ここまで鋭利に言語化できる人は、なかなかいないのではないでしょうか。単なる音楽愛好家である私の目からしても、もっと知られていい人なのではないかと思いました。

ところで本書を訳すに至った経緯について少し触れておきます。訳者は2017年に『ヴァイオリン・マスタリー』(全音楽譜出版社)という翻訳書(これもインタビュー本)を出していますが、翻訳時に念頭にあったのは、読者の方に気軽な読み物を提供することでした。

ところが実際の反響を見ると、技術面での示唆を受けたという声が思いのほか多く、一流の言葉は時を超越しているのかと思わされ、もしかすると他の楽器の――たとえばピアノの――学習者・指導者・演奏家の方々にとっても、往年の巨匠の言葉が今もなおヒントになるのではないかと感じ、今度はそのような意識で『ピアノ・マスタリー』を訳してみようと思い立ったわけです。

『ピアノ・マスタリー』は、実は『ヴァイオリン・マスタリー』の元ネタとなった本です。このため私がそこはかとなく意識していた本であり、訳すのには一種の必然性がありました。

なお、この『ピアノ・マスタリー』は個人企画として訳したものです。現代はとりあえずは自分で電子書籍で出せるので、ありがたい時代です。そのうち出版社にでも持ち込もうという考えでいたのですが、もろもろ考えから、ウェブサイトとして公開することにしました(本からサイトというのは通常とは逆パターンですが)。

なかなかサイトで全文をお読みになる方はいらっしゃらないかもしれませんが、少しでも拙訳をお読みいただきありがとうございます。

自分の訳が媒介になって、ピアノに携わる方々に少しでもお役に立てたなら望外の喜びです。

2018年6月
HK

p.s. 通常の読書感覚でお読みになるにはkindle版がおすすめです(kindle unlimitedの会員でしたら無料で読めます)。